運命

コトバが
まだ
言葉になりきれない
言葉のカケラが
落ちていた


だれかが落としたのだろう
もしかしたら
道に迷わぬよう
ヘンデルとグレーテルが
落としていったのかもしれない

わたしは コトバをひとつ手に取った
とても小さく
とても寂しそうだったから
まだからっぽのかご
いっぱいになるまで
ひとつひとつ そっと入れていった

ふと 足をとめ 顔をあげると
小さな三角屋根の家
お菓子の家ではないけれど
とても可愛く 温かそう
おいでおいでと 呼んでいるかのよう
コトバがかごから落ちないように
しっかりと脇に抱え 扉をギーっとあけた

ハッとした
真っ白だった
真っ白で 空気がピンっとして
とっても寒かった
わたしは 必死になって
コトバを壁に貼りだした
細いピンで
トントントン
トントントンと
コトバを壁に貼っていった


10日たち 10ヶ月がすぎ
10年たち 100年がすぎ
それでもまだ
トントントン
トントントンと
コトバを貼りつづける